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大阪高等裁判所 平成3年(ネ)1302号 判決

控訴人 町谷春雄 ほか三一名

被控訴人 国 ほか二名

代理人 山口芳子 藤浪真三 會津隆司

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

倉庫費用は控訴人らの負担とする。

事実

第一申立

一  控訴人ら

1  原判決中控訴人らに関する部分を取り消す。

2  被控訴人らは、各自、控訴人国賀祥司を除くその余の控訴人らに対し、それぞれ金三〇万円宛及び右各金員に対する昭和六一年六月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  被控訴人らは、各自、控訴人国賀祥司に対し、金三〇〇万円及びこれに対する昭和六一年六月一六日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

4  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

5  仮執行宣言。

二  被控訴人国

1  被控訴人国に対する本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

三  被控訴人大阪府

1  被控訴人大阪府に対する本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

四  被控訴人泉佐野市

1  被控訴人泉佐野市に対する本件各控訴をいずれも棄却する。

2  控訴費用は控訴人らの負担とする。

第二当事者双方の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正するほかは原判決事実摘示中の控訴人らに関する部分のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決四枚目裏七行目の「同月」を「同年五月」と、同行の「大阪府警本部」を「大阪府警察本部(以下『大阪府警本部』、『大阪府警』あるいは『府警本部』ともいい、また、泉佐野警察署をも含めて右同様に呼称することもある)」と、同五枚目表三行目及び同八行目から同九行目にかけての各「事務所」をいずれも「事務局」とそれぞれ改め、同六枚目裏一二行目の「から」の次に「同年」を、同七枚目表初行の「目録」の次に「一覧表」をそれぞれ加え、同九枚目表八行目の「何物」を「なにもの」と、同裏五行目の「第二項」を「第三項」と、同一九枚目表五行目の「第三項、第四項」を「第一ないし第四項」と、同裏四行目の「芦部前掲」を「芦部信喜『憲法と議会政』」と、同二七枚目裏初行の「違法」を「違法性」とそれぞれ改め、同三四枚目表一一行目の「から」の次に「同年」を、同一二行目の「目録」の次に「一覧表」をそれぞれ加え、同三五枚目表四行目の「第三二二条第一項」を「第九九条第一項」と、同三七枚目裏四行目の「議会」を「市議会」と、同四二枚目表九行目の「図べて」及び同末行の「全て」をいずれも「すべて」とそれぞれ改める。

2  原判決四五枚目裏初行の「目録」の次に「一覧表」を加え、同八行目の「「」を削除し、同一〇行目の「)」を「」」と改め、同五二枚目裏六行目の「目録」の次に「一覧表」を加え、同五四枚目表三行目の「及ひ」を「及び」と、同裏二行目の「選挙管理委員会」を「泉佐野市選管」と、同六一枚目表初行の「大阪府警」から同三行目の「ところ」までを「大阪府警本部は、昭和四九年に沖縄で発生した内ゲバ殺人事件の容疑者として指名手配中の中核派構成員の追跡捜査をしていたが」と、同六三枚目表六行目及び同七行目の各「議会」をいずれも「市議会」とそれぞれ改め、同六五枚目裏初行の「。」」を削除し、同六九枚目表九行目の「目録」の次に「一覧表」を加え、同裏一二行目の「等」を削除し、同八七枚目表五行目の「目録」の次に「一覧表」を加え、同八九枚目表四行目の「事務所」を「事務局」と、同九〇枚目表三行目の「目録」の次に「一覧表」を加え、同裏二行目の「。」」を削除する。

第三証拠 〈略〉

理由

一  当裁判所も控訴人らの本訴各請求はいずれも棄却すべきものと判断するが、その理由は次のとおり付加、訂正するほかは原判決理由中の控訴人らに関する部分のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決九六枚目表五行目及び同一二行目の各「事務所」をいずれも「事務局」と、同裏八行目から同九行目にかけての「澤谷警備係長の右申入れに対し」を「右澤谷警備係長が投票所入場券に関して了解を求めたことに対し」とそれぞれ改め、同九九枚目裏二行目の「目録」の次に「一覧表」を、同一〇一枚目表九行目の次に改行のうえ次のとおりそれぞれ加える。

「5 以上の各行為は、後記四項2(三)認定の公正証書原本不実記載、同行使及び公職選挙法違反被疑事件の捜査としてあるいはその過程において行われたものである。」

2  原判決一〇二枚目表三行目及び同五行目の各「事務所」をいずれも「事務局」と、同一〇三枚目裏初行の「警察署」を「警察署長」と、同一〇四枚目表二行目の「事務所」を「事務局」と、同一一一枚目裏二行目冒頭から同一〇行目末尾までを

「大阪府警本部は、昭和四九年に沖縄で発生した内ゲバ殺人事件の容疑者として指名手配中の中核派構成員の追跡捜査をしていたが、右容疑者が、中核派構成員と目される木岡と接触する可能性があることから、木岡の所在及び行動について内偵していたところ、木岡が住所登録地に居住していないことが判明した。そこで、大阪府警本部は、木岡に対する公正証書原本不実記載、同行使容疑での内偵捜査を進めることとした。」

と、同一一二枚目表一二行目の「受けた、大阪府警本部において」を「受けた大阪府警本部においては」と、同裏六行目の「捜査が進められることになった」を「捜査を進めることになった」とそれぞれ改め、同一一三枚目裏三行目の「並行して、」の次に「泉佐野市における」を加え、同一一五枚目表七行目から同八行目にかけての「期しがたいので」を「期しがたいとして」と改める。

3  原判決一一五枚目裏一〇行目の「以上に認定の」を「以上認定の」と、同一一六枚目表八行目の「特殊性に鑑み」を「特殊性があり、かつ、組織的に行われたとの疑いもあり」と、原判決一一六枚目裏二行目の「選挙」から同末行末尾までを「法定刑が同一であるとはいえ、犯罪の構成要件が異なり、訴因の特定あるいは罪となる事実の特定のためにはそのいずれかを確定する必要があり、かつ、そのいずれであるかは、選挙の公正の侵害される度合に差異があり、犯情にも差があることは明らかである。したがって、捜査当局が投票しようとした事実に止まらず、投票した事実を立証するために、その証拠の収集を図ろうとしたことは当然のことであって不当なものとはいえない。」と、同一一七枚目裏末行冒頭から同一一八枚目表四行目末尾までを

「前記のとおり、詐偽投票罪の被疑者と目されていた三七名のうち、一二名については投票行為が現認されたものの、八名については投票所への入場の事実が確認され、三二名(前記合計二〇名が含まれるものと推認される)については、投票所入場券の差押えにより投票所への入場の事実が明らかとなっていたものであるが、右投票所への入場の事実によって、これらの者が投票した可能性が認められるところ、投票用紙を持ち帰る者がいることに照らして投票所への入場の事実のみをもって投票の事実が立証されうるとはいえず、投票行為が現認された八名以外の者については、他の方法により投票の事実を立証する証拠の収集が必要であったものといえる。そして、詐偽投票罪において、投票した場合と、現に投票しようとした場合とでは構成要件が異なり、そのいずれかを確定しなければならないところ、本件においては、他に投票の事実を立証する証拠を確保する捜査方法も考えられなかったものである。

ところで、本件詐偽投票被疑事件は、その被疑者と目される者が三七名という多数であり、かつこれらの者によって組織的に行われた疑いがあることに照らして、選挙の公正を著しく害し、国民の選挙制度に対する信頼を揺るがせかねない相当重大な事件であり、捜査官には右事件の捜査を厳正に遂行することが社会的に要請されていたということができ、一方『投票した』ことの立証の方法としては、投票行為終了後においては、投票済投票用紙を差し押さえ、それに残された指紋ないし筆跡を確保して、被疑者らのそれと照合するよりほかになかったのであって(本件においては指紋の照合の方法がとられた)本件被疑事件の捜査の遂行のためには、本件投票済投票用紙を差し押さえる高度の必要性があったものである。

そこで、これらの捜査の必要性と投票の秘密の保障を比較衡量するに、なるほど投票の秘密の侵害はひいては民主政治の根幹を揺るがせかねない重大性を持ち、比較衡量においてもこれに重きを置いて判断すべきものではあること前記のとおりであるが、なお右捜査の必要性と比較衡量すると、本件においては、右捜査の必要性がより高度であって、そのために必要な限度で投票の秘密が犠牲になり、その保障が後退するのは止むを得ないものというべきである。

よって、本件における令状の発布請求及びその執行が憲法に違反したものとはいいえない。」

と、同一二〇枚目表七行目の「警察官」を「警察署の警察官」とそれぞれ改める。

二  以上のとおりであり、控訴人らの本訴各請求を棄却した原判決は相当であり、本件各控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山中紀行 寺崎次郎 井戸謙一)

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